鈴木 |
プークでは、また、ポカスカジャンに至るまで、
っていうのがあるじゃない。
客の詰め方! ありゃ、ビックリしたわ。
(注:プーク人形劇場でのポカスカジャンのライブは、
桟敷席がまるで満員電車以上のような状態だった) |
糸井 |
すごかったよ。俺たちは2階席でいたんで安定してたけど。
で、「あっちの人たちを憎みなさい」ってあおるんだ、
のんちんが。「あいつら、のうのうと!」って(笑)。 |
鈴木 |
セリで上がってきたんだよね。 |
糸井 |
あのイントロはよかったなあ。大げさで。 |
鈴木 |
あれで思い出したことがあってさ。
スパイナル・タップっていうバンドがあるんだ。
海外の一応ハードロックバンドなんだけど、
それが、映画が2本あって。
1本目はドキュメンタリーに見せているんだけど、
実はウソばっかなの。すごく笑えるんだ。
60年代からやっているすごい歴史のあるバンドで、
過去の映像とかも残ってる。
それが、フラワーチルドレンみたいな格好してたり
するの。で、「ビッグボトムという曲をやります」
って始めるわけだよね。
ところが、3人ギターがいるんだけど、
3人ともベースなんだ(笑)。
で、よく見ると、ベースのやつはダブルネックの
ベースで、どっちもベースなんだよ。 |
糸井 |
ダブルネックでしかも両方ベース! |
鈴木 |
(笑)……っていうバンドがいるんだけど。
ほんとそれしょうがないバンドで、
架空のウソのバンドなのに、第2弾の映画が、
ロイヤル・アルバートホール・ライブなんだ。 |
糸井 |
それはホント? |
鈴木 |
うん。ホントにやってる。
スパイナル・タップのTシャツ着てる客の前に、
メンバーが上から降りてくるんだよ。ロープで。
ところがひとり、降りられなくなって、
自分でペンチでロープ切って降りるんだ。
それをちょっと連想しましたね。
ポカスカジャンのあの出だしは。
それで、その話ちょっとすると、その最初の映画で、
「俺はすごく壮大な曲を書いた。ストーン・ヘンジという
曲を書いた。そのためにストーン・ヘンジを発注したい」
って、ステージの美術として発注するんだよ。
ところが16フィートを16インチと間違っちゃう。
16フィートのはずなのに、16インチのこのくらい
(小さい)のが完成する。
「これは、模型ですよね?」
「いや、これが本物です」
って。で、しょうがないからそれをステージで
上から降ろすわけだ。 |
糸井 |
いいなあ、それ!(笑)。 |
鈴木 |
で、演奏しながら「え?」って顔するんだけど。
第2弾でもやっぱりストーン・ヘンジが登場するんだ。
今度はそれがでかすぎて、楽屋の入り口から
入らない。ローディーが全部壊して、小さくしてさ。
で、やっぱり、演奏に間に合わないんだ。
それも結局、音楽が主なんだけど、
お笑いの度合いはポカスカジャンほど
多くはないけどね。そういう感じがしたね、
あのオープニングはね。「来たなーっ!」って。 |
糸井 |
そういうの、ポカスカは見ててやってる訳じゃないよね。
たぶん。あれは、セリをどう遊ぼうか、だろうな。
あそこの、段差、よかったもんね。
始まって……あの音楽で出てきて、
どうネタを始めるかってときに、
「♪今日も元気にポカスカジャン」って。 |
鈴木 |
あのアタマのBGMなんだっけ?
(注:ステッペン・ウルフのBORN TO BE WILDでした) |
糸井 |
ツァラトストラ系だよね、要するに。
すごいよなあ。あれをさ、ボキャブラに出ているような
若い子たちがあそこでああ出てきて、
「ハイッ、そういうわけでございますけどねっ!」
ってったら、面白くないんだよ。
それは種類が全然違ってるんだなぁ。
バンドなんだな、やっぱり。 |
鈴木 |
3人の、顔の、すみ分け具合っていうのかな、それもいい。
だけど、「どんと意識してる」って、言うか? |
糸井 |
「この衣装、どんとを意識したんです」って。
わかんないって。
(注:ボ・ガンボスのどんとです) |
鈴木 |
寺山修司も、ウケなかったんだよね。
(注:寺山修司のロックンロール、というネタ) |
糸井 |
ああ、でも、初日はもっとウケなかったみたい。
俺らのときは、あれで大丈夫って言えると思うよ。
永六輔だって……。永ちゃんで……。
(注:永六輔<永ちゃん>のロックンロール、というネタ) |
鈴木 |
(笑)。 |
糸井 |
いちばんウケたの、年寄りだもん。 |
鈴木 |
そうそうそう。
だって、タオルまでだもんね?
(注:E・ROKUSUKE、と書かれたバスタオルを
わざわざつくって、客に投げ入れた) |
糸井 |
ちょうどさ、カミさんが一緒に行ってたじゃない?
で、あの人はB型のヒトで、
平気でコンサートの途中で帰れる人間なんですよ。 |
鈴木 |
おお。すげえ。 |
糸井 |
勇気ある人というか、
それが当たり前だと思っている人なの。
で、ライブ行くって言うから、
「ヤだなぁ、途中で帰ったら」って思ってたんだよ。
なんの悪気もなく、悪びれずに帰るんだよ。
「じゃあ、あたし、行くから」って。
「待ってるから」って。「ゴハンどうする?」
なんつって帰っちゃうんだよ。
「ヤだなあ、それ、やられたら」って思ってさ。
ところがさあ。ずうっとねえ、大喜びでいて。
しかも、楽屋で「おもしろかったです!」って
本人たちに言ったんだよ。
あんなこと、ないよ。ふつうは、
「ありがとうございました」なんだよ、
ああいうときの挨拶は。
だって、「おもしろい」って明確な感想を
述べているわけじゃない? 肯定的な。
それはなかなかないよ。
あいつはねぇ……ケチだよ。 |
鈴木 |
褒めケチ。 |
糸井 |
うん。要するに、単純に言うと、
「意味もない正直さ」だから、
つまんなかったときって、まず楽屋にまで行かない。
「……いいんじゃない?」なんてごまかすんだけど、
行って、おもしろかった、まで言うっていうのは! |
━━ |
前回のときは慶一さんがいらっしゃるって
いうんで緊張してたんですよ。
俺らミュージシャンだから、って。 |
鈴木 |
その辺が、ドリフターズじゃないんだ、って気がするね。 |
糸井 |
あのさ、ポカスカジャンって、つい、ネタを
手伝いたくならない? |
鈴木 |
うん。 |
糸井 |
こういうの、なんか、ないかな、とか、
一緒になって考えちゃうよね。
あれ、シェアウエアっぽいよね。
このネタをこう転がしていく方法はないだろうか、って。
あれも、だから、芸として、表の顔・裏の顔じゃなくて、
どっちだかわかんない顔を見せるタイプだから、
そうなるんだろうなあ。 |
鈴木 |
そうだね。双方向性が生まれる。 |
糸井 |
あるよね。
あの双眼鏡のギャグ、みんな……、 |
鈴木 |
やっちゃった。
(注:双眼鏡を覗くジェスチュアを客にさせて、
右手だけ口元にもっていかせ、前後に動かさせ、
むにゃむにゃむにゃ……あとはとても書けません) |
糸井 |
俺もやっちゃったもん(笑)。
そういえば、うち、ムスメも「ポカスカ」見てたんだって。
あの日は用事があって行かないことになって、
終わったころにメールが入ってて。そのタイトルが
“今日も元気にポカスカジャン”だったんだよ。 |
鈴木 |
おお。 |
糸井 |
あれ? と思って。なんで知ってるんだろう、偶然かな?
とか思ってさ。で、聞いたら、お笑いの、
大勢出るライブで、2度くらい見てるみたい。
「いいよねー」なんて言ってたよ。
“今日も元気にポカスカジャン”って、
……くだらない家族だなぁ、なんて思って。 |
鈴木 |
いいな、そういう家族って、って思うけどね、俺は。
くだらないものが、だいじ……っていう。 |
糸井 |
共通するの。 |
━━ |
ポカスカっていうのは……ギター、うまいんですか。 |
鈴木 |
うまいよ。
うまいにもいっぱいあるけど、じゅうぶん。
じつにじゅうぶん。 |
糸井 |
ああいう、楽器持って出るお笑いの人とは、
もう全然ちがうよね。レベルがね。
つまり、ホテル・カリフォルニアの
ツイン・リード聞きたいな、って言わせるレベルだから、
それはもう全然違うんじゃないかな。
のんちんのハーモニカもうまかったよね。 |
鈴木 |
ナイスだったよ。ミック・ジャガーなハーモニカだった。 |
糸井 |
あと、あの、応援したくなる原因のひとつは、
双方向もあるんだけど、稽古好きですね。
あの、短い期間で、新ネタ全部やったんですよね。
あれ、稽古してなかったら、もたないでしょう。
で、暗記モノがものすごく多いでしょう。
あれはスゴイと思うね。 |
鈴木 |
そして長いし。あれ、チャック・ベリー「剣の舞」だっけ? |
糸井 |
ベンチャーズの「剣の舞」。
(注:ベンチャーズが剣の舞を演奏したら、というネタ) |
鈴木 |
あれ、好きだなあ。
あれね、ちょっとクヤしくてウラヤマシイものあんの。
ああいうのをね、音楽聴きに来たお客さんの前でやると
笑ってくれると思うんだよ。
やりてぇな、っていうね。
だから、なんかね、ポカスカジャン見にくると、
2回目は、「なにパクッてやろうかな?」ってね。 |
糸井 |
おお。 |
鈴木 |
ただね、ムーンライダーズのステージ上で
やることではないかもしれないけれど。 |
糸井 |
慶一くんのソロで、もう一人ギタリストが遊びに来て、
さんざん練習しておいて、「せーのっ」でやる、
なんて、カッコイイよね。 |
鈴木 |
それがベンチャーズ「剣の舞」だった、とかさ。
コピーしたくなっちゃうよね。ホントに。 |
(次回につづく) |